時代

親が子供だった頃、ぼくはまだ産まれていなかった。人々が天使だった頃、ぼくはまだ天国に見守られていた。世界が渦巻だった頃、ぼくは多分それを観測していた。

タイムリミット物語

無限に続く延長線上で、特に明確な切迫感もなく、影も形もない恐怖に怯えながら、或いは怯えという感情に支配されながら、それでも抵抗するしかないかもしれず、しかしその手段は暗中模索の過程で、三々五々に散乱していく崩壊の中、それでもなお救済がある…

無理

何も書く必要が無い人が、どうして文字に向き合う事があるだろう。

「つまり、どういう事さ?」

「つまり、どういう事さ?」――質問ではなく、独り言でもなく、要するに純然たる音声でしかなかった。しかし、それは避けられない行為でもあった。そうしなければならなかった理由もないし、そうせざるを得なかった責任もない。聖母が昇天する絵画も、天皇陛…

忘れないで、と、言った。 忘れないよ、と、返した。 二人でカレーライスを食べていた。群青一色のカフェテラス兼レストラン。茫漠とした風景に包まれている。誰でもない二人が、覆面で見つめ合っている。人間の想いと呼べるものが何かを模索し、言葉だけが…

退屈

この世に終わりが訪れる筈だった。そう信じていた。単なる思い込みだった。終焉という約束は実は蜃気楼であり、脳内の群衆が視た集団幻覚でしかなかった。群衆は去り、廃墟の思考回路が漠然と残存するだけになった。 彼は現世の屍であった。死ぬ為に生きてい…